冷蔵庫

9月とはいえまだ暑い夜、ひんやりした場所を求めて暗いキッチンで小さなスツールに座ってぼんやりしていると、ぱたっと冷蔵庫のドアが開く。中からくたびれたスーツ姿の悪魔が窮屈そうに出てくる。「よっ」と片手を上げて悪魔が言う。「いや、しかし暑いね」と言って悪魔は缶ビールをぷしっと開ける。「勝手に飲むなって」と私が言うと悪魔はにやっと笑って、また冷蔵庫のドアを開けて中に戻っていく。「おい」と言って追いかけるように冷蔵庫のドアを開けてもそこには昨日買っておいたメイトーのとろけるかぼちゃプリンしかないのでしかたなくそれ食べてるなう。おいしいなう。

今年の頭からずーっとやってた重たい仕事が一区切りついたので少しほっとしている。それで、やりたかったことに少しずつ手をつけたり会ってみたかった人に会いに行ったりなどしてる。手を伸ばす場所はたくさんあって、まだまだ自分はサボっているなあと思う。自分の人生、宇宙に浮かんだ一本のものさしだとして、土星くらいのとこから眺める。まだ少し遠く闇の中の40代50代含めて、ズームイン、ズームアウト、全体を俯瞰するイメージで眺めてぐらぐら考えめぐらして、あーこれはいかんいかんよーと焦る。粘りつく残暑の中、光も影も塗りつぶして夜がじわじわと遠近感を奪っていく。