各駅停車

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#5

暗闇でしか聞こえない音、木漏れ日の中でしか吹かない風、眠れない夜にしか見つけられないヒント、繰り返しリセットされる景色、埃まみれの日々、うずまきのような日々、続く日々、グラスの底に張り付いたコースターが剥がれ落ちていく合間に各駅停車は今日も群青色の金魚鉢の底をなめらかに走り抜け誰かが手にしたアイスクリームも溶けていくゆっくりとあるいはあっという間に。

終わらせる

#4

遅い夏季休暇、夏を終わらせるための切符を買い北上。諏訪、戸隠と神々の地を辿り武蔵信濃越後を縦断、日本海へと突き抜ける。フォッサマグナだった頃の前世の記憶が蘇る。

最終目的地は母方の墓がある新潟だがあえて新幹線を使わない経路でめんどくさく行く。移動することそれ自体に価値があるので旅はめんどくさくせねばならない。長野から直江津を経由すると日本海沿いぎりぎりを走る電車に乗ることができる。なんとしてでも左の窓際を確保するのだ。

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めんどくさいといえば、長野駅の改札では謎の理屈により Suica が使えないが改札以外の場所 (コインロッカーなど) では普通に使える。なんなの。

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#2

夜の渋谷では立ち止まるとなんだか思考が停止してしまうので逃げ回るように歩き続ける。意味なんていらないだろう捨てちまえばいいとすれ違う悪魔が囁きかけてくる。

夜と夜の間、ビルとビルの間、指と指の間を順番にこぼれ落ちていく。このじめじめするばかりの初夏を満たして滲ませる。

#1

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ネオンテトラの水槽あたりで振り切ったはずだったが、クラゲに見惚れている間に追いつかれ中央の一番大きな水槽の前で追い詰められてしまう。じりじりと距離を詰められながら睨み合っていると不意に背後に気配を感じる。振り返ると、とてつもなく巨大な青く美しい影が水の中をゆったりと横切っていく。我々は二人ともただ息を呑みその姿を見つめている。

月面

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#4

4 月。第 4 ボタンが取れかかったまま冬を乗り切ってくれたコートをちゃんと直しておこう。

取り壊されてまっさらになった母の実家跡地は月に似ていた。超古代文明が滅び去った月面で新月の真っ暗な月面で春の風が吹く月面で海辺の近くの月面で、静かに宇宙船を待つようにふんわりと昇華する時間の澱をぼんやりと見送った。

触媒

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#1

旧暦換算ということなら節分が過ぎようやく厄年が終わったことになる。いろんなことが一度に重なったり体調崩すなどもあり厄年恐るべしとしか言えない一年であった。まだ後厄なので気は抜けない。しかし神田明神で厄払いをしたという同年の友人は何事もなく過ごしたらしい。みなさん厄払いはするべし。

#2

新たな年の開運には新たな習慣、新たな触媒が必要であろうと思いあれこれ考えた結果、腕時計を買ったのである。19 歳のとき以来 20 年以上ぶりに身に着けるわけだが思いの外違和感はなくなんなら結構気に入っている。

ちなみに 19 歳で一度腕時計をやめているのは、大学受験の試験当日に腕時計を忘れて時間がわからないまま受験せざるを得ず焦ったものの割とどうにかなった、むしろ集中力が高まりめっちゃ早く解き終わって余裕で 3 回くらい見直せたりしてかえってよかった、という経験を経てこれはなくてもいいものなのかもしれないと捨てたのであった。まだ携帯電話が普及していない時代になかなか思い切ったことをしたものだが実際その後そんなに困ることもなかった。

太陽と地球が回転するから朝が来て夜が来るらしい。ということは時間とは太陽と地球の回転のことだ。今この左手で宇宙がぐるぐる回転しているのだ。そして長針と短針が奇跡の角度で交差するとき私は大いなる宇宙の波動とシンクロし、おやつの時間を知るのだ。おやつはどら焼きなのだ。

#3

東京は大雪で真っ白へ沈没。僕の足音も君の舌打ちも一夜に埋もれてどこにもないねもうどこにも。