椅子

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眠い。春というのは基本的に眠いものだから仕方がない。あきらめて机の上に突っ伏す。意識がじんわりしびれていく。視界が歪んで机の表面はいつのまにか水面になる。水面は頬すれすれでゆらゆら揺れている。あれ、水、と思うや否や、体ごと、とぷんと沈む。そのままゆっくり、沈んでいく。沈む。どんどん沈む。どこまでも沈む。見たことのあるようなないような深海魚とすれ違う。あたりはだんだん暗くなり、深まるグラデーションの果てで暗闇になる。それでもまだ沈む。天使や悪魔とすれ違う。沈む。ただただ沈む。沈んで、沈んで、そして、沈んで、そして、そして、ついに底らしき場所へたどり着く。底には小さなランプが置いてあり薄暗く灯っている。ランプの脇に一脚の椅子があって、そこにうまい具合にふわりと着座する。座って落ち着いてしまうと、急に意識が冴えてくる。暗闇の中でなんだか不安になってくる。思わず立ち上がる。その瞬間、まわりの暗闇は黒い鳥の群となり、ばばばっと飛び立ち上空へ消え去る。突然立ち上がった私を見てまわりの人たちがくすくす笑っている。