蛇を踏む / 川上弘美

蛇を踏む (文春文庫)

蛇を踏む (文春文庫)

ウェブでブログやら日記やらを読んでいて、あーこの人の感覚すごい好きだなー、と思う人が決まって好きな作家として挙げているのが川上弘美で、それでずっと気にはなっていたのだが読めずにいた。先日、読む本がなくなって何かないかな、と探していたときにふと思い出して、ちょうど日本の作家の本が読みたかったところだったし、ということで読んでみた。

なんとなく勝手な前イメージとして穏やかなやさしい、色で言うとクリーム色みたいな作品を書く人なのだろう、と思っていたら、全然、そんな甘いもんじゃなかった。特に表題作の「蛇を踏む」が凄まじくて、最後の場面の、混濁した意識の中で世界の境目が崩壊してどんどん加速していくところなんかは何度読んでも面白い。こういう、混沌を切り取って断片だけさらりと見せるようなことができる人は少ない。並べられている言葉は淡々としていてリズム感があり、言葉の響きだけでうっとりさせられる。それでどんどん誘い込まれて、物語の渦巻きに心地よく引きずり込まれていく。

しばらくはこの人の作品を読み漁りそう。好きな作家が増えた。

ところで、この人のこのリズム感や独特の空気感は何かに似ているなーと思っていたのだが、黒田硫黄だ、と気付いた。でも黒田硫黄のコミックスを読んで川上弘美っぽい、て言う人は少なそうだなー。