麦ふみクーツェ / いしいしんじ

麦ふみクーツェ (新潮文庫)

麦ふみクーツェ (新潮文庫)

この本のことを書くのを忘れてた。

以前「ぶらんこ乗り」の感想で「ファンタジーに傾きそうなぎりぎりの場所をキープしつつ現実感を失わない」と書いたのだけど、こちらはむしろぎりぎりファンタジー寄り、な感じ。登場人物がみんな個性的というかコミカルに描写されていて、最初はそれが過剰な感じに思えたのだけど読み進めていくうちにだんだんそれが魅力になっていく。唯一悪役として登場する「セールスマン」でさえ活き活きと描かれている。

ストーリーは、最初はやわらかくてうっすらと明るいようなイメージから始まり、だんだんグレーになって中盤は沈んだ展開が結構長めに続く。そして場面が転換してチェロ弾きの先生が登場したあたりから一気にカラフルになり、最後はまたやわらかいイメージに戻る。喜びと悲しみが互い違いにかみ合って辿り着くべき場所への道をぱたぱたと織り上げる。

一つのストーリーとしてのまとまりみたいなものは「ぶらんこ乗り」の方が上のような気がするけど、読み終わったあとに残る幸福感みたいなもの(と読み終えてしまった寂しさ)はこちらの作品の方が上かもしれない。