小屋

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#3

ドアをノックする回数を間違えて月の裏側にある真っ黒な花が一面に咲く広場に出てしまう。ここに来たら次の新月まで帰れない。しまったと思うがどうしようもないので広場の真ん中にある小屋に向かう。小屋には同じように間違えて来てしまった年配の先客が一人いて落ち着いた様子で紅茶を飲んでいる。彼は木星から来たという。見たことのないかたちの素敵な帽子をかぶっている。木星にもあの橙色のドアがあるのかと思う。しばらくぼんやりと窓の外を眺めていると不意に風が強くなって黒い花がざわざわとなびく音が聞こえてくる。来ましたね、と言って我々は灯りを消し息を潜める。

結晶

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#2

マフラーの隙間を縫って冷たい風に絡まった 0.5 秒の結晶がすり抜けていく。雪が降るとか降らないとかいって結局降らなかった日、立ち止まってぱりぱり砕ける風の音に耳を澄ませていたらうっかり影を凍らせてしまった。

白昼

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#1

冬晴れの静かな青空、透明な白昼の三角形、七曜の螺旋にがんじがらめ。泥だらけの手でかき分け転がり込んで、無限に広がる円天をあんぐりと見上げて、ようやく呼吸を思い出す。

交差点

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#1

モノクロの交差点に夜色の夜が流れ込んだらマイクロチップの雨が降ってすべてのネオンが溶け落ちて、耳の奥で始まるカウントダウンを遮り指先で五芒星を描いてとどめを刺すのだ、グラスをひっくり返すように青い便箋を握りつぶすように。

各駅停車

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#5

暗闇でしか聞こえない音、木漏れ日の中でしか吹かない風、眠れない夜にしか見つけられないヒント、繰り返しリセットされる景色、埃まみれの日々、うずまきのような日々、続く日々、グラスの底に張り付いたコースターが剥がれ落ちていく合間に各駅停車は今日も群青色の金魚鉢の底をなめらかに走り抜け誰かが手にしたアイスクリームも溶けていくゆっくりとあるいはあっという間に。